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『木に学べ―法隆寺・薬師寺の美』

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木に学べ―法隆寺・薬師寺の美』を読みました。

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もともと仏教建造物や仏教美術に興味があることもあって、この本もそういう興味で手に取りました。しかし、良い意味で大いに裏切られた本です。この本は単に法隆寺や薬師寺の良さを伝える本ではなく、そういうものを通して人間や自然の奥深さを伝えている本でした。

著者の西岡常一氏は法隆寺や薬師寺の復元を任された宮大工棟梁。氏が、法隆寺や薬師寺や、棟梁としての仕事について語っている本ですが、そこからは宮大工という狭い範囲にとどまらない、どんな仕事にでも、あるいは生き方にも通用するような心構えを学ぶことができます。

例えば冒頭で、木にはクセがあり、そのクセを読むのが棟梁の仕事だと言います。それに続けて氏はこう言います。

木のクセを見抜いてうまく組まなくてはなりませんが、木のクセをうまく組むためには人の心を組まなあきません。(中略)「木を組むには人の心を組め」というのが、まず棟梁の役目ですな。職人が50人おったら50人が、わたしと同じ気持ちになってもらわんと建物はできません。

5章の「宮大工の生活」では、見習いの時に掃除や洗濯、子守りまでやらされたことを紹介し、それは色んな立場の人の気持ちを理解するために必要なことだと言われたそうです。そういうこと全てを知っているのが棟梁というものだと教えられたそうです。その後、氏はこう続けます。

とにかく、人の心がわからないようでは人を束ねてはいけません。棟梁というのは、大工だけではなしに、ありとあらゆる職人を束ねていかねばならないのだから、ありとあらゆる人の苦しみをよく知っていなくてはいけない、ということでしょうな。

今の時代、最初から最後まで、完全に一人だけで完結するような仕事はありません。ほとんどがチームという形で仕事をすることになるでしょう。それは、西岡氏のような宮大工も同じです。棟梁とは、いわばプロジェクトマネジャーのような仕事なのかもしれません。

その立場にある人はもちろん、チームの一員として働く人でも、「人の心を組む」重要性を認識しておくことは非常に大切です。もちろん、プロジェクトの成否には人的なもの以外にも様々な要因が絡んでくるでしょう。ただ、自分の経験では、この「人の心を組む」という部分が、プロジェクトの成否を決める大きな要因のひとつになっているような気がしています。

この本では、西岡氏がチームの一員として働いてきた頃の話から棟梁として働いてきた頃の話まで、様々な立場から見た仕事をやる上での心構えが説かれています。また、法隆寺や薬師寺の復元を担当した西岡氏が実際にそれらのお寺の見方を説明している部分もあるので、良質な法隆寺・薬師寺ガイドとしても使えるかもしれません。

読む人や書かれている部分によっては、西岡氏のともすれば頑固とも言える信念に違和感をおぼえることもあるかもしれません。あるいは、上で紹介したような「名言」の部分だけを取り上げて、ただ感心して終わってしまいかねない本でもあります。

このような一見読みやすく、影響を受けやすい、誰かの経験が綴られている本を読む上で大切なのは、文字面を読んで感心するだけでなく、そのような言葉を彼が発した裏にある、経験や思考の積み重ねを、一枚ずつ薄紙をはがしていくように丹念に追体験しようと思考し続けることではないかと思っています。

もちろん、簡単にできることではないでしょうし、そのように読んだからといって、答えが見つかるようなものではないかもしれません。しかし、その言葉が生み出された源泉を知ろうと努力すること、時には自分の経験も盛り込みながら想像力をふくらませて読んでいくことは、とても大切な本との向き合い方ではないかと思っています。

ちなみに、この本を読んでいて、以前に読んだ『調理場という戦場』を思い出しました。料理人や宮大工といった、今の自分とはまったく関連のない職業ですが、どんな道でも、それを極めた人の言葉というのは、多くの人を魅了する迫力にあふれていますね。

本当に良い本でした。

木に学べ―法隆寺・薬師寺の美 (小学館文庫)
西岡 常一

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