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『秘すれば花』

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秘すれば花』(渡辺淳一著/講談社文庫)を読みました。

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ご存じの方も多いと思うが、能の大家である世阿弥が父である観阿弥からの教えをまとめたものに「風姿花伝」という書物がある。「花伝書」とも知られている本である。今回読んだのは、その風姿花伝を「人生の指針として愛読してきた」とまで言う渡辺淳一が、原文と共に自身の解説も加えている一冊だ。

既に書いたように、この「風姿花伝」という書は、能を中心とした芸論書であり、室町時代に書かれた古いものである。しかしながら、渡辺淳一も書いているように、現代の、能とはゆかりもない我々が読んでも学ぶところが多い一冊だ。読めば読むほど、観阿弥・世阿弥の能に対する強烈なまでの取り組み方、そして自分自身を戒める態度に感銘を受ける。

例えば、最初の「年来稽古条々」の章では、年齢ごとの能への取り組むと、稽古への姿勢が語られている。例えば、今の自分の年齢に近い24, 5歳のところにはこのように書かれている。

時分の花を真の花と知る心が、真実の花になお遠ざかる心なり

ここでは24, 5歳の頃が、その人の芸が一流のものになるか否かの最初の分かれ目だとして、この言葉が書かれている。しかし、社会に出ると、いくらいっぱしの大人のつもりでいる自分たちも、まだまだ若いのである。そこから、若さゆえの華やかさだとか、現代の仕事に当てはめるとエネルギッシュな仕事ぶりだとかによってもてはやされることがある。しかし、これは若さゆえの花でしかないのだ。この時の自分の周囲からの好意的な評価を自分の実力、つまり真実の花だと勘違いしてしまうと、本当の真実の花からは遠ざかってしまうというのである。

実に厳しい指摘だ。この年齢に限らず、どの年齢に対しても花であり続けるための必要な心構えが紹介されている。たとえ今の自分とは離れている年齢でも、学ぶところは多い。

この「年来稽古条々」以外では、世阿弥の質問に観阿弥が答える形式で進んでいく「問答条々」が面白い。対話特有の緊張感も感じられて興味深い。やや長くなるが、この中で自分が気に入った部分を引用してみる。

又、同じ上手なりとも、その中にて重々あるべし。たとい、随分究めたる上手、名人なりとも、この花の公案なからん為手は、上手にては通るとも、花は後まではあるまじきなり。公案を究めたらん上手は、たとえ、能は下るとも、花は残るべし。花だに残らば、おもしろき所は、一期あるべし。されば、真の花の残りたる為手には、いかなる若き為手なりとも、勝つ事はあるまじきなり。

同じ名人であっても、自分の花に対する工夫がないような者は長く花が咲き続けることはない。しかし、工夫を怠らなかった名人は、たとえ能の技は落ちても、花は残る。花が残れば、芸の魅力は一生涯残るというのである。

このように、かなり古い、しかも能の書でありながら、現代の人にも大きな影響を与えるようなエネルギーを持ち続けている。本文中で、何度か渡辺淳一が触れているが、この時代の能とは、今のように完成された芸術ではなく、身分の高い人に対して神社のようなところでやることもあれば、庶民に対して野外でやることもあったという。そして、他の座との競争に勝ち抜いていかなければいけないという状況もあいまって、単なる芸を超えて、いかに生き抜くかを必死に考えなくてはいけない時代だったようだ。

そのような時代に編まれた書が現代に生きる我々にも感銘を与えるのは不思議ではない。お薦めの一冊である。

以下、風姿花伝関連のリンクを少し。

・風姿花伝について
http://www.janis.or.jp/users/shujim/fusikadn.htm
能へのいざないから。上で書いた年来稽古条々が紹介されている。

・『すらすら読める風姿花伝
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062117959/250-4173703-2301826
→ご存じリンボウ先生の風姿花伝解説書。なかなか良さそう。

・風姿花伝現代語訳
http://www.graco.c.u-tokyo.ac.jp/~sato/kaden/
→無料で現代語訳をという方はここら辺が。

・松岡正剛の千夜千冊『風姿花伝』
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0118.html
→やっぱり千夜千冊では紹介されていましたね。松岡正剛氏が解説するとこうなる。

2 thoughts on “『秘すれば花』

  1. 重要なのは評価じゃなくて、何を根拠としてその評価になったかって事ですよね。
    おじさんばかりの職場で甘やかされ気味な新人としては耳が痛いです。
    もっと努力せねば。。。
    「又、同じ上手なりとも・・・」のくだりも考えさせられますね。
    うちの部の仕事は似たような流れが多いから、こなすだけの
    人とそうでない人との差が顕著に出てるような気がします。

    それにしても風姿花伝とはセンス良いですね。
    前にいただいた斉藤さんの本もおもしろかったです。
    私は最近、吉田松陰が書いた孟子の解説本を読んでますよ。
    孟子が終わったら風姿花伝を読んでみようかなぁ。
    また是非本の話をしたいものです。
    忙しいようなのでいつになるかわかりませんが、是非ぜひ。

  2. レス遅れました…。

    確かに自分の生活に当てはめてみると、なかなか考える
    ことが多い内容でした。この本に限らず、どんな本を
    読んでも、どこかの分野で「一流」と呼ばれる人の言動は
    どこに持っていっても参考になりますね。

    孟子を読んでるとはなかなかシブイ。読み終わったらぜひ
    感想聞かせて下さい。

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