Home » » 『行動主義―レム・コールハースドキュメント』

『行動主義―レム・コールハースドキュメント』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

行動主義―レム・コールハースドキュメント』を読みました。

4887062338

プラダや、最近では中国のCCTVの本社プロジェクト、国内では福岡にネクサス集合住宅などで知られている建築家レム・コールハース。「建築家」という枠にとどまらない彼に密着して書かれたドキュメントがこの『行動主義』だ。

この本の装丁はかなり美しい。画像ではわからないが、カバーを取った状態も、また違った表情を見せてくれる本だ。そんな装丁に惹かれて思わず衝動買いしてしまったが、中身に至っては装丁を超える満足度。文字やWeb、あるいは具体的な物など、何かを「創る」ことに少しでも関心がある人なら必読の書だ。

圧倒されるのは、この本から伝わってくるコールハースのエネルギーやテンションだ。とにかく熱い。熱すぎるのだ。本人が語っていないのが残念ではあるが、以前に書いた『調理場という戦場』に通じるほどのテンションを感じる。物を産み出す人で、エネルギーレベルやテンションが低い人はあまりいないだろうが、ここで書かれているコールハースのエネルギーは圧倒的だ。建築や音楽に限らず、時代を変えていく人のエネルギーはかくや、という気がする。

例えば、シラキュース大学での講演を終え、そのままリムジンでマンハッタンへ移動し、数時間の睡眠しか取っていないにもかかわらず、一日中テンション落とすことなく会議を続ける場面あたりは開いた口がふさがらなくなるだろう。とにかくすごい。

上にも書いたようにコールハース自身が書いた本でないのが残念だし、コールハースというとてつもない存在を前に、どうしても著者の表現が陳腐なものに陥ってしまっている場面も見かけられる。しかし、そういう点はあるものの、このつかみにくいものを良くまとめていると思うし、彼女の発する言葉にも示唆に富んでいるものが多い。いくつか挙げてみよう。

例えば、コールハースがコンペの条件をまったく無視して、前提からまったく新しいものを提案する。普通ならルール違反で失格になるが、彼はそのアイディアの斬新さで、逆にコンペを勝ち抜いてしまう。そういう話の後で続く言葉にこういうものがあった。

掟やぶりたちはそこに普通の人間には見えないもっと広いフレームワークを見出しているのであり、それを相手に説明し説得するのにかかる追加の作業をいとわないボルテージの高さを備えていなければならない。

また、オフィスでの取材をしている際、激怒しているコールハースに遭遇する。彼は、適当なドローイングを描いてしまった若手スタッフを、叱責というより罵倒する。その場面を経て続く次の言葉が印象深い。

若者は、自分の不準備や不勉強などさしたる問題ではなく、うわべさえ繕えばうまくごまかせるものだと思いがちだ。しかし、師匠は遙かに上手なのである。師匠は手や身体を動かして自ら無数の経験を積み、若者には見えない異次元に到達しているものだ。そこでは、ものごとが足し算や引き算的な線状に並んでいるのではなく、視覚、聴覚、神経、心理、直観、好み、知識、記憶といったあらゆるものが複雑に絡まり合っている。そこからなら、絵を一瞬見ただけでその質はもちろんのこと、描き手の意図や心情などのすべてが透けて見えるのだ。コールハースが経てきた経験も、誰にも及ばないほど圧倒的な量なのである。よもや、高を括ってはならない。

この本では、著者のドキュメントの他、コールハースの周りにいる人物へのインタビュー、そして最後にコールハース本人へのインタビューが載っている。著者のドキュメントは、どちらかというと文脈に乏しく、ブツッと始まりブツッと終わる感じがある。それに若干違和感を感じるが、コールハースの人生の中の断片を切り取って、その奮闘ぶりをそのまま再現したものと捉えると、まぁ、そんなものかとも思う。全体として、もう少しよく練られても良かった感じもあるにはある。

とはいえ、コールハースという、とてつもなく大きく、とらえどころのない存在を、これだけ粘り強く追い、その奇跡を克明に記録したこの本は、とても貴重な一冊である。何かを創る、産み出すようなことをやっている人はもちろん、純粋にコールハースという人間に興味がある人や、建築家というのはどういう人間なのだと思っている人まで、どんな人が読んでも十分に楽しめる本。

行動主義―レム・コールハースドキュメント
瀧口 範子

4887062338

関連商品
WHAT IS OMA―レム・コールハースとOMAについての考察
錯乱のニューヨーク (ちくま学芸文庫)
にほんの建築家 伊東豊雄・観察記
インフォーマル
S,M,L,Xl
by G-Tools

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>