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祖父の想い出

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朝、比較的早い時間に電話が鳴る。

祖父が亡くなった。

祖父は戦争を経験した人だった。

戦争中、戦車に乗っていたそうだ。そのせいで片肺を失うことになった。生前、「自分は半分の肺しかないから、人の半分しか生きられないんだ」と冗談めかしてよく言っていた。そして、90歳に届こうとする年まで生きた。運の強い人だった。

小学生の頃、戦争の話を直接聞いたことがあった。残念なことに、自分は宿題の延長みたいな態度でしか聞いてなかった。それでも、祖父が語る、正直な体験には強い印象を受けた。なぜもっと真剣に聞かなかったのか。今でも聞いてみたいと思う。

祖父はユーモアがある人だった。

入院していた頃、体が弱っていてうまく箸が使えなかったのか、フォークばかり使っていたそうだ。その名残なのか、祖父は自分が物心ついた時からどんなご飯でもいつもフォークしか使わなかった。なぜフォークしか使わないのかと尋ねると、「自分は西洋かぶれだから」と周りを笑わせた。

いつも小気味の良い、ウィットの利いたことを言っては周りを和ませた。時に頑固ではあったけど、多くの人が集まると、いつもみんなの顔に笑顔を作った。

祖父は頭の回転が早い人だった。

祖父とオセロや将棋、五目並べをよくやったことがあった。一度も勝てなかった。きっと今でも勝てないだろう。そして、負けても悔しいとさえも思えないほど、鮮やかな手を打つ人だった。

誰かと話していても、まるで将棋をやるように、ちょっと先を読んでいるような話の聞き方をし、的を得たコメントをする人だった。決してたくさんしゃべる人ではないけど、一言で周りを感心させることができる人だった。

祖父は器用な人だった。

祖父ができないことはないんじゃないかと思うほど、器用で多彩な人だった。絵を描いて周りを驚かせ、ちょっとした芸を披露しては周りを沸かせた。祖父が育てる植物はどれも立派に育ち、見事な花を咲かせる。庭はいつも華やかだった。

祖父の家に行くたびに、いつも何か新しい「仕掛け」ができていた。その「仕掛け」は、家をより住みよいものにしただけでなく、小さな感動を与えてくれる魔法のようだった。

祖父はアイディアに満ちていた。

祖父が作る新しい「仕掛け」は、すべて祖父のちょっとした不満や「こうだったら良いのに」から生まれていた。自分の勉強に集中するために、はしごで上れる「中二階」のプレハブの部屋を自分で作ってしまった。

自分のお墓を買い、墓石の横にある花立てが雨水で汚れるのを嫌った祖父は、自分で開閉式のふたを作って取り付けてしまった。祖父の周りのお墓を持っている人に「自分のところにも同じものを付けたいのだが、それはどこで買えるのか?」と聞かれたほどだ。

祖父は仕事ができる人だった。

思えば、あれが最後に祖父と会って話をした時だった。正月の挨拶に行った時、祖父はおもむろに自分の仕事時代の写真や、もらった表彰状や楯を見せてくれた。公務員として、実直に勤め上げた祖父は、本当に仕事ができる人だったのだろう。

写真や表彰状を見せる顔はとても誇らしげだった。その頃、ちょうど自分は仕事で行き詰まっていた頃だった。自分は、自分の孫に誇れるような仕事をしているだろうか。そういう仕事をしよう。そう誓ったのが、祖父との最後の会話になるとは思ってもいなかったのだが。

思い出せば思い出すほど涙が出てきた。

また会って話をしたいことがたくさんある。教えてもらいたいこともたくさんある。陳腐ではあるかもしれないが、きっと祖父の家に行けば、いつものように部屋の奥に少し照れたように座っていて、自分のことを迎えてくれるのではないか。まだそんなことを思ってしまう。

きっと祖父は天国でも、周りの人を笑わせ、新しいアイディアとその器用さで周りを驚かせ、周りからの賛辞を、少し照れながら、しかし嬉しそうに、受けているのだろう。食事はとっても器用にフォークを使って食べているはずだ。いつもと同じように。

今となっては、自分が毎日やるべきことを精一杯頑張って、少しでも祖父に近づくように努力をすることくらいしか、祖父に孝行をすることはできなくなってしまった。それは少し寂しいことではあるけれど、あの尊敬すべき祖父をいつまでも忘れずに、少しでも近づきたいと努力する。そうして毎日を生きていく。それはとても幸福なことなのだ。

じいちゃん、今まで本当にありがとう。天国でもそのままのじいちゃんで。じいちゃんに少しでも近づくために、頑張るよ。

安らかに休んでください。

2 thoughts on “祖父の想い出

  1. おじいさまのご逝去、お悔み申し上げます。素晴らしいおじいさま。もう会えないのはとっても悲しいけど、これからは新井さんの胸の中にいますね。お孫さんからこんなふうに思われて、おじいさまは幸せです。

  2. komarinさん、遅ればせながらコメントありがとうございます!

    そうですね、あの後のエントリーにも書きましたが、多くの人に慕われて、祖父は本当に幸せだったと思います。

    komarinさん、お心遣いありがとうございました。

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